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【ノーベル賞】アラン・アスペ教授の研究内容:量子力学・量子もつれ:2022年物理学賞

はじめに

2022年、ノーベル物理学賞を受賞した、アラン・アスペ教授、ジョン・クラウザー博士、アントン・ツァイリンガー教授は、量子力学の「量子もつれ」という現象を実証して、量子コンピューターなどの技術の基盤となりました。量子力学・量子もつれについて、簡単にわかりやすく説明します。

目次

  1. 研究内容の要約
  2. 簡単に説明すると
  3. ニュース記事
  4. まとめ

研究内容の要約

量子力学とは

辞書には、「素粒子・原子・分子などの微視的な系を記述する力学体系。シュレーディンガー方程式にしたがう状態を導入、観測によって得られる測定値との間に確率的な解釈を行うことで、量子がもつ波動と粒子の二重性、測定における不確定関係などを矛盾なく説明する。量子力学は粒子および粒子集団を扱う現代物理学の基礎理論として、一方では原子核論・物性論へ、また一方で素粒子論・場の理論へと進展した」とあります。

つまり、「素粒子などの量子は、波動と粒子の性質を合わせ持ち、測定すると不確定な結果になる」ということです。

量子力学の説明

量子もつれ

量子もつれとは、2個以上の量子が古典力学では説明できない不思議な相関を持つことをいいます。

例えば、量子にはスピンという自転のような性質があり、スピンは上向きと下向きの2通りしかないことが知られています。ここで、上向きのスピンの量子と下向きのスピンの量子が、量子もつれを起こしているとき、この二つの量子同士の距離がどんなに離れていようとも、片方の量子のスピンの向きが変われば、もう片方の量子のスピンの向きも瞬時に変わるという話を聞いた方も多いのではないでしょうか。しかし、実はこの話は、周囲の影響をほとんど受けない光子(光の粒子)などの量子に限られます。電子などの量子は熱などの影響を受けやすく、量子もつれは簡単に壊れてしまいます。

量子もつれに関する動画

ベルの不等式の破れ

1964年、スイスのCERN(欧州原子核研究機構)の理論物理学者ベル(John Stewart Bell)が,量子もつれになった物体の性質を測定する実験を考え,もし測定する前にその性質が具体的な値として存在していたとしたら測定結果が満たすべき不等式を理論的に導いた。実際に実験してこの不等式が破れていれば,量子もつれの存在が実証される。

5年後の1969年にクラウザー,ホーン(Michael Horne),シモニー(Abner Shimony),ホルト(Richard Holt)の4人がベルの不等式を実験で検証しやすい形に書き換え,量子もつれを検証する実験が始まった。それは量子もつれになった光子を右と左に飛ばし,その先にあるフィルターでそれぞれの光子の偏光を測定する実験だ。その嚆矢となった実験は1972年,クラウザーらがカルシウム原子のエネルギー遷移によって放出される量子もつれ光子を用いて実施した。そして,ベルの不等式が破れるとの結果を得た。

だがクラウザーの実験には抜け穴があった。実験では発生した量子もつれ光子のそれぞれについてどの偏光を測定するかを,光子源や相手方のフィルターとは完全に独立に選ぶ必要があった。だがクラウザーの実験ではフィルターで測定する偏光の角度が固定されていたため,それが量子もつれ光子の発生に影響を与えている可能性を原理的に否定できなかった。

1982年,アスペは新たな実験を考案し,この抜け穴を解決した。量子もつれになった光子が発生源から放出されてからフィルターの角度をランダムに変えることで,設定が光子に与える影響を遮断したのだ。アスペの実験によってベルの不等式は実証され,量子もつれの存在を疑う研究者は実質的にいなくなった。

物理学者たちはその後も量子もつれの完全な実証を目指して実験を続けた。アスペの実験ではフィルターどうしが比較的近い場所に置かれていたため,それらの間に何らかの通信が起き,測定する偏光方向が独立でなくなる可能性を捨てきれなかった。ツァイリンガ−は近年,別々の銀河から来る信号に従って検出器の設定を切り替えることでこの問題を解決し,さらに光子の検出確率を大幅に上げて,残っていた抜け道をすべて塞いだ。こうして,量子もつれの存在は完全に実証され,パラドックスは解消した。

クラウザーの実験
クラウザーの実験

中央のカルシウム原子から量子もつれになった光子を右と左に放出し,フィルターを用いてその偏光を測定した。ベルの不等式は破れたが,実験に抜け穴があった。

アスペの実験
アスペの実験

光子を放出してから測定に用いるフィルターをランダムに選ぶことで光子源に対するフィルターの影響を遮断し,抜け穴を塞いだ。ベルの不等式の破れを実証し,量子もつれの存在を疑う研究者はほぼいなくなった。

ツァイリンガーの実験
ツァイリンガーの実験

光子の検出確率を向上するとともに,左右で異なる銀河からの信号によってフィルターを選択し,フィルターの間で通信が起きる可能性をなくした。抜け穴を完全に塞いだ実験でベルの不等式が破れ,量子もつれは実証された。

量子力学における不可解なパラドックスとして登場した量子もつれは,現在では量子暗号通信や量子コンピューターなどの量子情報技術を実現するために不可欠なリソースと捉えられている。例えば量子もつれになった光子どうしを通信チャネルとして使うことで,量子情報を遠くの光子にジャンプさせ,量子暗号を長距離通信することが可能になる。この技術は「量子テレポーテーション」と呼ばれ,ツァイリンガ−らが1997年に最初の実験を行った。

さらに近年の研究により,量子もつれはブラックホールの解明やホログラフィー原理といった理論物理学の最先端研究において,非常に重要な要素であることが明らかになっている。量子もつれの存在を実証した3氏の実験は,量子情報技術のみならず,量子情報を切り口にした物理学研究の新たな潮流の出発点になった。

量子もつれの画像

「量子もつれ」の瞬間を世界で初めて画像に記録

量子コンピューター

辞書の意味

辞書には、「物質の量子力学的な性質を利用して動作するコンピュータ。複数の計算を同時に実行でき、スーパーコンピュータの数億倍ともいわれる高速計算が可能とされる」とあります。

古典コンピュータ

古典コンピュータ(普通のコンピュータ)は、「0」と「1」の組み合わせによって、動作しています。

この「0」と「1」で表す情報処理の単位は、「ビット」と呼ばれます。

例えば、「2」という数字は「10」という2ビットで表され、「A」という文字は「0100 0001」という8ビットで表されます。

この「0」と「1」は、コンピュータの電子回路のスイッチをオン・オフすることで実現されます。

このスイッチのことを「論理ゲート」と呼びます。

量子コンピュータ

量子コンピュータは、「0」と「1」を重ね合わせた「0+1」という状態の処理によって、動作しています。

この「0+1」と表現したものは、量子力学に従って、蓋を開けるまで、「0」か「1」かが、分からない状態のものを指しています。

「0+1」という情報単位は、「量子ビット」と呼ばれます。

この計算を実現する電子回路を「量子ゲート」と呼びます。

例え

古典コンピュータの計算方法を例えると、1円玉を台の上に放り投げて、出た「裏」と「表」を読み取って、「0」か「1」を判別して、計算しているようなものです。

一方、量子コンピュータは、1円玉を台の上で回転させた状態で、「裏」と「表」を読み取って、判別して計算するようなものです。同時並行的に、とても素早く判別・計算できますが、誤りも発生します。

計算方法

古典コンピュータ

4桁の暗証番号を解く場合に、古典コンピュータは、10の4乗回の計算が必要になります。

以下は、2進数の3桁の数字を求める時の総当たり計算の図です。

古典コンピュータの計算
量子コンピュータ

一方、量子コンピュータでは、「0+1」の重ね合わせの性質を利用して、「0000」から「9999」までの10,000通りの計算を同時に行うことで、瞬時に正解を導き出せます。

この図では、正解の「101」を導き出していますが、間違えて、他の答えを出す時もあります。

量子コンピュータの計算

簡単に説明すると

  1. 量子とは、電子や中性子などのことで、波動と粒子の性質を合わせ持ち、測定すると不確定な結果になるものです。
  2. 量子力学とは、そんな量子に関する力学で、波動と粒子の二重性と、測定すると不確定な結果になることを矛盾なく説明するものです。
  3. 量子もつれとは、スピンする量子の一方の向きが変わると、どんなに離れていても、他方のスピンの向きも変わる現象のことです。
  4. 量子コンピューターとは、「0+1」という「量子ビット」という単位で構成されて、同時並行的に高速計算するものです。
  5. つまり、波動と粒子の性質を持つ量子の「量子もつれ」の現象を実証して、量子コンピューターに応用したというのが、受賞理由です。

ニュース記事

ノーベル物理学賞に米欧3氏 量子技術革新の土台築く

ノーベル物理学賞に米欧3氏

スウェーデン王立科学アカデミーは4日、2022年のノーベル物理学賞をフランスのエコール・ポリテクニークのアラン・アスペ教授(75)ら米欧の3人の研究者に授与すると発表した。量子力学と呼ぶ物理学の理論の発展に貢献し、次世代の高速計算機である量子コンピューターをはじめとする量子技術の革新の土台を築いた業績を評価した。

アスペ氏とともに受賞するのは、米カリフォルニア大学バークレー校などで研究に励んだジョン・クラウザー博士(79)と、オーストリア・ウィーン大学のアントン・ツァイリンガー教授(77)。

量子力学は原子や電子、光子(光の粒)といった「量子」の性質や振る舞いを解き明かす物理学の理論。3氏の業績により、2つの量子の間に見られる「量子もつれ」と呼ぶ特殊な結びつきが実証された。量子もつれは、ペアになった量子の一方の状態がもう一方に瞬時に伝わる現象。3氏の成果は量子コンピューターなど、その後の量子技術を支える基盤となった。

3氏は量子もつれなどの状態をそれぞれの方法で実証し、量子コンピューターの基盤技術となる現象を確認した。これらの業績をもとに量子コンピューターの研究が活性化し、19年には米グーグルが既存のコンピューターを上回る性能を初めて実際に示すことに成功した。

量子コンピューターはスーパーコンピューターで何億年もかかる難問を数分や数時間で解く潜在力を秘め、米テック企業などが開発競争を繰り広げる。日本企業も開発に乗り出しており、富士通が23年度に実機を整備する計画だ。

ボストン・コンサルティング・グループの予測によると、40年ごろには量子コンピューターは最大8500億ドル(約120兆円)の価値を生む可能性がある。

2022年10月4日:日本経済新聞

まとめ

波動と粒子の性質を合わせ持つ量子の「量子もつれ」という現象を実証。

「量子もつれ」は、一方の量子が一つの答えを出すと、他方の量子が他方の答えを出す現象。

それを量子コンピューターに応用。

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